【仮想通貨の法人設立】タイミングや方法、メリットとデメリット
今回は『 仮想通貨取引における法人設立 』について、法人化する場合のタイミングや法人化のやり方、メリットやデメリットなど詳しくご紹介させて頂きます。
仮想通貨取引で大きな利益を得るようになると、税金対策として法人設立を検討される方もおられるかと思います。
しかし、仮想通貨の法人化にはメリットだけでなくデメリットもあるため、慎重に検討する必要があります。
今回はそんな「仮想通貨の法人設立」に関して、以下の点についてまとめてみました。
・仮想通貨で法人化するタイミングは?
・仮想通貨で法人化するメリット・デメリットは?
・仮想通貨の法人化で節税効果はある?
このページで分かる事
仮想通貨で法人化する場合は、様々な事を考慮した上で判断する必要がありますが、目安となる法人化のタイミングについて解説していきます。
仮想通貨取引で得た利益は、国税庁より総合課税であると公表されています。
そのため、仮想通貨の利益額に対して税金が課されますが、個人事業主と法人とでは以下のように税率が異なります。
上記は、所得税と法人税の税率になりますが、これに住民税なども合わせると、個人事業主の場合だと、税率は最大(所得が4,000万円以上)で55%にまでなります。
しかし、法人税の場合は年800万円超でも23.2%(住民税を合わせても約33%)と固定されているため、税率に約20%の違いが出てきます。
つまり、仮想通貨取引での利益がある一定額を超えると、法人の方が支払う税金が少なくなるという事です。
個人事業主では、所得が900万円を超えると税率が33%(住民税を合わせると約43%)になるため、それ以上の利益があるようであれば、900万円を超える前の800万円くらいが法人設立を考える一つのタイミングになります。
ただ、法人設立には設立費用や税理士報酬、社会保険料や役員報酬などの費用も発生するため、税金面だけでなく総合的に判断して検討する必要があります。
個人事業主からの法人化で仮想通貨の引継ぎをする場合には、利益額だけでなく、移行する際の仮想通貨の相場や損益などから判断する必要もあります。
個人で保有している仮想通貨を法人へ移行する場合、譲渡(売買)や贈与などの方法により資産を移転する事になります。
その際、個人として利益または損失が確定したことになるため、仮想通貨の相場(時価)によって個人に高額な税金が発生したり、損失が発生する場合もあります。
※個人と法人は別物として扱われるため、仮想通貨を移行する際に個人の利益確定となる
※個人から法人に譲渡した場合には、時価で資産の譲渡があったものとして個人の所得金額に応じた税率で課税される
【 時価 500万円−売却価格 100万円=含み益 400万円 】
仮想通貨を移行する際に400万円分が個人の所得税の課税対象となります。
上記のように、相場が上がってから譲渡すると税金が高額になり、また反対に、相場が下がりすぎていると損失が発生します。
仮想通貨を移行するタイミングによって利益や損失が大きくなる場合もあるため、年間の利益額だけでなく、仮想通貨の相場や今後の見込み利益などから総合的に判断し、早い段階で法人化するというのも一つの方法です。
個人では損失を翌年以降へ繰り越すことは出来ませんが、法人では10年間の繰り越しが可能です。
実際に法人化する場合(法人設立時)には、以下のような手続きが必要になってきます。
登記申請が完了するまでにおよそ1週間から10日程度、法人設立の手続きが全て完了するまでには、およそ2週間~3週間の期間が必要です。
続いては、法人化するメリット、デメリットについて解説します。仮想通貨の法人化に関しては、こちらを十分に理解した上で検討する事が重要です。
仮想通貨の法人化には、主に以下のようなメリットがあります。
冒頭で述べたように、個人事業主にかかる所得税と法人にかかる法人税の税率には違いがあります。
法人の税率は最大でも約23%と固定されているため、利益額が大きくなっても税率が上がる事はありません。
そのため、仮想通貨の利益額が一定以上を超える場合は、法人化することで税率が低くなり、税負担を軽減することができます。
個人事業主の場合は、仮想通貨取引で得た利益は雑所得として扱うため、赤字が出た場合でも他所得との損益通算はできません。
しかし、法人の場合は法人所得全体での損益通算が可能です。
仮想通貨の取引で損失が出てしまった場合でも、他所得の黒字と相殺して法人の利益を圧縮し、課税所得を減らすことができます。
こちらも先程申し上げたように、個人では仮想通貨取引での損失を翌年以降へ繰り越すことはできませんが、法人では10年間繰り越す事が可能です。
仮想通貨取引では大きな損失が出る場合もありますが、最大10年間の赤字繰越が可能なため、その損失分を回収することもできます。
また、大きな利益が出た場合でも、それ以前の損失分と相殺することで所得を低くし、支払う税金を抑えることができます。
個人事業主の場合、売上から必要経費を引いた利益が課税対象となるため、仮想通貨の利益に対して給与所得控除を利用出来ません。
しかし、法人では仮想通貨の利益が給与所得となるため、給与所得控除を利用して法人税を抑えることが可能です。
また、役員報酬に対しても給与所得控除が適用されるため、個人にかかる所得税も抑えることができます。
法人の場合は、家族や従業員などを雇用して報酬を支払う人数を増やすことで、所得を分散して税金を抑えることが可能です。
個人にかかる所得税は、累進課税制度により所得が多いほど税率も上がる仕組みになっています。
報酬を支払う人を増やせば、個人の所得額を低くする事ができるので、税率を下げて節税へとつなげる事ができます。
個人事業主も法人も、事業に関わる費用はすべて必要経費として計上することができますが、法人化すると経費にできる範囲が広くなります。
個人事業主で計上できる経費は限定的ですが、法人の場合は、賞与や退職金、出張手当や会議費なども経費として計上することが出来ます。
仮想通貨の法人化には、上記のようなメリットがある反面、以下のようなデメリットもあります。
法人設立するためには、まず登記手続きが必要で、その際に定款の認証代、謄本手数料、登録免許税などの費用がかかってきます。
また、その他にも資本金の準備や、登記手続きを専門家に依頼した場合にはその費用も必要になってきます。
合同会社か株式会社かによっても費用は異なりますが、法人設立時にかかる費用はおよそ25万円程度です。
さらに、必要書類の準備や手続きなど、時間や手間もかかります。
法人化すると、会社を維持していくための費用も必要になってきます。
会社の維持に必要となる費用としては、主に以下のようなものがあります。
法人の場合、決算期時点で保有する仮想通貨の損益を計上する必要があります。
その際、仮想通貨を時価で評価するため含み益にも税金が発生します。
仮想通貨の相場によっては含み益が高額になり、予想外に税金がかかってしまう場合もあります。
仮想通貨を売却して納税資金を準備しようとしても、仮想通貨の価格が下落していれば、十分な資金を確保できないといった事態にもなりかねません。
法人化すると、仮想通貨の利益は法人口座で管理する事になり、あくまで法人の物となるため、社長であってもその口座から自由にお金を引き出すことはできません。
個人の場合は資金を自由に使うことが可能ですが、法人で自由に使うことができるお金は役員報酬のみです。
それ以外に個人的な目的でお金を引き出す場合には、法人から個人に対する貸付としての契約書が必要となり、利息を付けてきちんと返済する必要があります。
ここでは、仮想通貨の法人化で、具体的にどのような節税方法があるのか、また高い節税効果はあるのかについて解説します。
法人化すれば、主に以下のような方法による節税効果が期待できます。
法人税の税率は最大でも約33%となるため、個人の所得税率が法人税より高くなる前に法人化することで、支払う税金を大幅に抑えることができます。
家族を役員や従業員として雇用するなど、報酬を支払う人を増やす事で一人当たりの所得額を低くし、税率を下げることで節税できる場合があります。
法人では法人所得全体での損益通算が可能なため、仮想通貨取引で利益や損失が出た場合でも、他所得と相殺して課税所得を抑えることができます。
また、10年間の赤字繰越も可能なため、仮想通貨で損失が出た場合、翌年以降に大きな利益が出れば損失分と相殺して、課税所得を低くすることができます。
法人化することによって、経費にできる範囲が広くなるため、課税所得を低くして支払う税金を抑えることができます。
前項のように、法人化することで節税する方法はありますが、必ずしも高い節税効果があるとは言い切れません。
個人の場合、税率が高いなど税制面で不利なことも多いですが、仮想通貨を売却しなければ利益確定することはなく課税されることはありません。
しかし法人化すると、法人化のデメリットでも少し触れましたが、決算期に仮想通貨の含み益にも税金が発生します。
仮想通貨の含み益に対する課税額によっては、法人での節税効果はあまり期待できない可能性もあります。
続いては、個人で所有している仮想通貨を法人化して引き継ぐ方法について解説します。
個人で購入した仮想通貨を法人で引き継ぎたい場合、単なる名義変更という形で資産を移行する事はできません。
まず、法人として仮想通貨取引をするためには、仮想通貨取引所で新たに法人口座を開設する必要があります。
この法人口座の開設ですが、取引所によっては法人口座を開設できない所もあるため、法人口座の開設が可能な取引所を選ぶ必要があります。
また、口座開設時に必要となる「法人登記簿謄本」の事業目的に、仮想通貨取引が記載されていない場合は、口座開設の審査で落ちる可能性もあるため注意が必要です。
個人と法人はあくまで別物として扱われ、以下のいずれかの方法によって個人の資産を法人へ移行する事になります。
譲渡 | 個人事業主から法人へ資産を売る | ・法人が買う形となるため、購入資金が必要になる ・個人は売る事になるため所得が発生し、譲渡した年の雑所得として計上する必要がある ・売買価格は、取引き時点での時価で行う必要がある |
贈与 | 個人事業主から法人へ無償で譲渡する | ・法人側で購入資金は必要ない ・無償でもらうため、取引時の時価相当額が受贈益となり法人税が課税される |
現物出資 | 個人の仮想通貨を法人設立時の資本金に充てる | ・出資総額が500万円を超える場合は、裁判所が選任した検査役の調査が必要 ・専門家による価格証明書(現物出資財産の価格が適正であることを証明する書面)を出す必要がある ・含み益のある仮想通貨の場合には所得税が発生する |
賃貸借 | 所有権を個人のままにして法人に貸す | ・法人側で資金を準備する必要がない ・個人は法人から利息収入を得ることができる ・利息収入は雑所得となり、確定申告と所得税の納付が必要となる |
仮想通貨の利益に対する税金ですが、個人と法人とでは課税されるタイミングが異なります。これは、法人化を検討する上でも重要なポイントとなります。
個人の場合では、売却や交換、商品購入などによって仮想通貨を手放し、利益が確定した場合に税金が発生します。
仮想通貨をただ保有しているだけでは、確定申告をする必要もなく、所得税の課税対象にもなりません。
法人の場合は、これまでにも何度かお伝えしてるように、毎年決算期に保有している仮想通貨の損益を計上する必要があり、その時点の含み益にも税金が発生します。
個人のように、売却や交換などを行って利益が確定した時だけでなく、決算期時点で仮想通貨を保有していて含み益があれば、税金は発生するようになっています。
法人の含み益に対する課税は、変動幅が大きい仮想通貨において大きなリスクとなる可能性があります。
今回ご紹介させて頂いたように、仮想通貨の法人化には税制上のメリットがある反面、デメリットやリスクもあるため慎重に検討する必要があります。法人化してどれだけの節税効果があるのか、法人化するタイミングなど、ご自身では判断が難しい場合もあるかと思います。
当事務所では、効果的な節税方法や法人設立に関する相談も承っております。仮想通貨の法人化でお悩みでしたら是非お気軽にご相談下さい。