失敗しない法人化のタイミング・時期・売上目安
今回は『個人事業主から法人化するタイミング』を、売り上げや利益などの観点、さらには何月が良いか?など時期的な観点からベストなタイミングを紹介させて頂きます。
売り上げや利益が増えると不安になるのが経費や税金の事。
そこで今回は、
・個人事業主から法人化するのにベストなタイミングや時期
・そもそも個人から法人成りするメリットやデメリット
・更に法人化する際に知っておきたい手続きや節税、助成金
についても詳しくまとめてみました。
このページで分かる事
個人事業主と法人の大きな違いは、売上や利益、所得に対する税負担の違いです。
この税負担が、法人と比較して個人事業主の方が高くなる前に法人化するのがひとつのタイミングです。
個人事業主には所得税、法人には法人税が課せられますが、税率が以下のように異なります。
【個人事業主/所得税の速算表】
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超~330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超~695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超~900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超~1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超~4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
上記の表を見ると分かるように、個人事業主の場合900万円を超えると税率が33%になり、売上や利益が増えるごとに税率が高くなる(超過累進税率)仕組みになっています。
一方、法人税の税率は年800万円超で23.2%であるため、 売上や利益が一定額を超えると法人の方が税の負担を少なくすることができます。
売上や利益から考えた場合、法人化のタイミングとしては、個人事業主としての利益、課税所得が900万円を超える前、800万円~900万円くらいが目安と言えるでしょう。
法人の場合、会社の設立日や決算日を自由に決めることができます。
法人化(会社設立)するタイミングとして、決算月を何月にするかという事もポイントのひとつになってきます。
決算月は事業年度の最終月になるので、例えば4月に会社を設立すると4月から翌年の3月までの一年を事業年度とした場合、3月が決算月となります。
決算月は、それぞれの会社の事業内容により、繁忙期(売上が上がる時期)を避ける、節税に効果がある月などを考慮して選ぶと良いでしょう。
繁忙期を決算月にすると、
などといった事になりかねない為、繁忙期を避けるのがおすすめです。
節税に効果がある月を選ぶというのは、消費税の免除期間を最大限長くできる(節税効果を長く活かせる)月を選ぶということです。
消費税については以下で詳しく説明しますが、会社の設立月から最も離れた月を決算月にすることで、消費税の免除期間を最大限に活かすことができます。
消費税には2年間の免除期間があり、年間の売上高が1,000万円を超えた2年後に消費税の納税義務が発生します 。
これは個人事業主でも法人でも同じですが、個人事業主から法人化した場合は、個人事業主と法人は別物として考えられるため、法人化した年の過去2年間の売上高はないことになります。
そのため、個人事業主で年間の売上高が1,000万円を超え消費税の納税義務が発生する直前に法人化することで、消費税の納税義務がさらに最長2年間免除されます。
消費税の節税効果から考えると、消費税課税事業者となる前に法人化するというのがベストなタイミングと言えます。
※法人化の際に、資本金を1,000万円以上に設定した場合は、設立事業年度から課税事業者となります。
※特定期間の課税売上高が1,000万円を超え、かつ、その特定期間の給与等の支払額が1,000万円を超えた場合、 翌期は納税義務が発生しますのでご注意下さい。
個人事業主から法人化する前に、メリットとデメリットについてもしっかりと理解しておきましょう。
前述したように、超過累進税率である個人事業主と違って、法人税の税率はほぼ一定率であるため、所得(利益)が一定額を超える場合は法人化することにより、税金の負担を軽減することが可能です。
また、法人化することにより以下のような節税対策も可能になります。
上記のように、法人税以外でも法人化による節税メリットがあります。
一般的に、個人事業主よりも法人の方が信用力は高くなります。
法人化することで社会的信用度が増し、金融機関からの融資を受けられるようになるなど資金調達の面で有利になります。
また、取引先を増やしたい、従業員数を増やしたい、事業規模を大きくしたい場合においても、社会的信用がある法人の方が有利です。
個人事業主の場合、1月から12月までが事業年度となり3月に納税というのが決められています。
しかし、法人の場合は決算期を自由に決定する事が可能、また変更することも可能です。
繁忙期を避ける、節税効果を考えて決定するなど、会社の都合に合わせて決算期の決定や変更ができるのも、法人化するメリットのひとつです。
会社を設立すると社会保険への加入が可能になります。
個人事業で加入する国民年金に比べて、社会保険の厚生年金の方が老後の受給金額が高くなります。
また、社会保険などの福利厚生がしっかりしていると、会社としての信用度も高まり人材を集めやすいというメリットもあります。
会社設立時には以下のような費用が必要になってきます。
会社の設立に約25万円程度が必要、さらに資本金の準備が必要です。
資本金の額は、1円から設定することが可能となっていますが、目安としては運転資金の3カ月程度。
しかし、資本金を1,000万円以上で設定すると、設立事業年度から消費税の課税事業者となるため、消費税の免税を受けることができません。
会社を設立すると、法人税とは別に法人住民税の支払い義務が生じます。
法人住民税とは、地方自治体に納める地方税(都道府県民税 ・ 市町村民税)です。
法人住民税には「均等割負担」というのがあり、会社の資本金や従業員数によりその金額は異なり、会社の規模が大きいほど課税額は高くなります。
また、それぞれの自治体によっても税額が変わってきます。
東京都の場合だと「資本金1,000万円以下・従業員数50人以下」の会社で7万円となっています。
この均等割に関しては、会社が存在していれば課される税金なので、たとえ会社が赤字であっても必ず支払わなければなりません。
個人事業主の場合、従業員数が5人以上になる場合のみ社会保険への加入が必要となりますが、法人の場合は、会社を設立した時点で社会保険へ強制加入することになります。
個人で支払う国民健康保険や国民年金とは違って、社会保険料は会社が半分を負担することになっています。
そのため、従業員の数が多ければ、それだけ社会保険料や人件費など、会社の負担する額は増えることになります。
会社を設立する最も大きなデメリットと言えるのが、会計処理や事務処理などの業務が倍増すること。
法人となると税務処理なども複雑になり、申告時期などは特に手間や時間をとられることになるでしょう。
また、節税対策においては、計画的にじっくり取り組む必要があり、一歩間違えると脱税と判断される恐れもあるため注意が必要です。
確定申告前や決算前に慌てて行うと、十分な節税効果を得られないだけでなく、そういった事務手続きに追われて、事業に専念できないということにもなりかねません。
法人化することで、個人事業主よりも確実に事務的業務は増えるため、こういった業務は専門家に依頼するというのも一つの方法です。
ここからは、個人事業主から法人化する際の、具体的な手続き方法についてご紹介させていただきます。
会社設立時には以下のような手続きが必要になってきます。
会社の基本事項の決定 | 『 会社名(商号)・会社の所在地・会社の形態(株式会社、合同会社)・事業目的・発起人・資本金・役員構成など 』を決めておく必要があります。 また、会社名が決定すれば、会社の印鑑作成の準備も必要。 会社の印鑑は「実印・角印・銀行印」の3種類が必要です。 |
定款の作成と認証 | 定款(会社の基本事項を文書にまとめたもの)を作成し、公証役場で公証人による認証手続きを行う必要があります。 |
資本金の払い込み | 定款の認証が完了すれば、資本金を発起人の口座へ払い込みます。 |
登記申請 | 法務局で会社の設立登記の申請を行います。登記申請書を作成し、他の必要書類(定款・印鑑証明書・出資金払込証明書 など)とともに、窓口へ提出します。 |
登記申請が完了するまでには、およそ1週間から10日程度の期間が必要になります。
法人化した後に必要な手続きは以下の通りです。
税務署・都道府県への書類提出 | 税務署、市町村役場にて法人設立の届出が必要、以下の書類を準備し提出します。 ・法人設立届出書 ※会社設立から2ヶ月以内 ( 都道府県・市町村へは1カ月以内の提出が目安) ・青色申告承認申請書 ※会社設立から3か月以内 ・給与支払事務所等の開設届出書 ※会社設立から1か月以内 ・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 ※なるべく早く (支給人数が常時10人未満の場合のみ適用可) |
年金事務所への書類提出 | 年金事務所にて、社会保険加入の手続きが必要、以下の書類を準備し提出します。 ・健康保険、厚生年金保険新規適用届 ・健康保険、厚生年金保険被保険者資格取得届 ・健康保険被扶養者(異動)届 ※会社設立から5日以内に提出 |
労働基準監督署・ハローワークへの書類提出 | 従業員を雇用する場合は、労働基準監督署・ハローワークにて、以下の書類を準備し提出します。 労働基準監督署に提出する書類 ・労働保険保険関係成立届 ※雇用してから10日以内に提出 ・労働保険概算保険料申告書 ※雇用してから50日以内に提出 ハローワークに提出する書類 ・雇用保険適用事業所設置届 ※雇用してから10日以内に提出 ・雇用保険被保険者資格取得届 ※雇用した日の翌月10日までに提出 |
個人事業の廃業届の提出 | 個人事業を廃業し法人化する場合は、 税務署と都道府県税事務所・市区町村窓口にて廃業手続きが必要、以下の書類を準備し提出します。 ・個人事業の開業・廃業等届出書 ※廃業後1カ月以内に提出 ・事業開始(廃止)等申告書 ・青色申告の取りやめ届出書 ※廃業関係書類の提出の要否や提出のタイミングは専門家に相談することをおすすめします。 |
それぞれに提出期限があり期限が短いものもある為、余裕を持って準備しておく必要があります。
個人事業主から法人化するとなると、前述したように様々な手続きが必要となるため、専門家へ依頼するという人も少なくありません。
法人化の手続きは、『税理士・司法書士・行政書士』などに依頼することが可能です。
しかし、会社設立手続きに関して代行できる業務は決まっています。それぞれの専門家が代行できる主な業務や特徴は以下通りです。
士業 | 代行できる主な業務 | 特徴 |
税理士 | ・開業届、法人設立届等の税務書類の作成 ・助成金や補助金の申請 ・創業融資のサポート | ※登記手続きは代行できない ※登記手続きは司法書士と連携しているケースが多い ※顧問契約と合わせて依頼することで、会社設立手続きを無料、または安い報酬で引き受けている税理士事務所も多い ※税務処理や会計処理などに関しても相談したい場合はおすすめ |
司法書士 | ・登記申請に関連する書類の作成 ・定款の認証、登記申請 | ※書類作成から登記申請まで代行可能 ※設立後の税務関係や会計処理などには対応していない ※登記手続きのみを依頼したい場合はおすすめ |
行政書士 | ・建設業許可など行政に提出する許認可書類の作成 | ※登記手続きは代行できない ※許認可申請に強い ※複雑な諸認可申請が必要な業種の場合はおすすめ |
上記のように、それぞれに異なる役割があり代行できない業務もあります。
ただ、税理士や行政書士が代行できない登記手続きなどは、提携している司法書士に委託するなど他の士業と提携しているケースがほとんどです。
法人化として始める事業の業種や依頼したい内容など、状況に応じて依頼する専門家を選ぶと良いでしょう。
設立後も継続的に節税の相談などをしたい場合は、会社設立手続きから税理士に依頼するのがおすすめです。
個人事業主から法人化までの流れを、分かりやすく以下にまとめてみました。
会社名(商号)・会社の所在地・会社の形態(株式会社、合同会社)・事業目的・発起人・資本金・役員構成など、会社の基本事項を決める。
会社の印鑑も作成しておく。 「実印・角印・銀行印」の3種類が必要 。
定款を作成し、公証役場で公証人による認証手続きを行う 。
定款の認証が完了すれば、資本金を発起人の口座へ払い込む。
登記申請書を作成し、他の必要書類(定款・印鑑証明書・出資金払込証明書など)を準備して法務局で設立登記の申請を行う。
税務署、市町村役場にて法人設立の届出を行う。
※必要書類
年金事務所にて社会保険加入の手続きを行う。
※必要書類
労働基準監督署・ハローワークにて労働保険関連の手続きを行う。
※必要書類
税務署と都道府県税事務所・市区町村窓口にて廃業手続きを行う。
※必要書類
会社設立の手続きを専門家に依頼しない場合、法人化の手続きが完了するまでには、およそ2週間~3週間の期間が必要、事前準備も合わせると1カ月以上かかる場合もあります。
最後に、法人化する前に知っておきたい事についてご紹介させて頂きます。
仮想通貨や副業で得た利益は基本的に「雑所得」に該当し、年間20万円を超える部分に関しては税金が発生します。
雑所得は総合課税の対象となるため、給与所得など他の収入との合計額に対して税金が発生します。
【所得税の速算表】
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超~330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超~695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超~900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超~1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超~4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
例えば、会社員で給与所得が500万円、仮想通貨などで得た利益が300万円だった場合、課税される所得金額は800万円になり税率は23%となります。
所得税率は最大で45%ですが、これに住民税の10%を合計すると税率は55%にまでなります。
前述したように、仮想通貨や副業で得た利益は総合課税の対象となるため、利益額が大きくなるほど税率が上がります。
また、仮想通貨には損益通算や赤字の繰越が認められていません。(赤字が出た場合でも他の所得と相殺する事ができない、翌年以降に損失を繰り越すことができません。)
しかし法人化すれば、
などのメリットがあり税金を抑えることが可能です。
仮想通貨や副業の利益額が大きい場合は、節税対策に効果的な法人化を検討することも必要です。
最後に、法人化について相談出来る所についてもう一度ご紹介します。
相談できる所 | 相談内容 |
税務署 | ・税務関係、確定申告に関する相談が可能 ・電話相談、面談相談などが可能で無料で何度でも相談ができる ・会社設立手続き、節税に関する相談には対応していない |
司法書士 | ・会社設立手続き、書類作成から定款の認証、登記申請などの相談が可能 ・節税などの税務関係や会計処理などには対応していない |
行政書士 | ・会社設立手続き、行政に提出する許認可書類などの相談が可能 ・節税などの税務関係や会計処理などには対応していない |
税理士 | ・会社設立手続き、税務関係、創業融資のサポート、助成金や補助金の申請などの相談が可能 |
税務関係の簡単な相談なら、税務署でも対応してもらうことができ費用も無料です。
しかし、法人化する際には資金の調達や事業の準備、会社設立に伴う複雑な手続きなども必要になってきます。
そのため、法人化に関する相談はあらゆるサポートが可能な税理士がおすすめです。
会社設立時だけでなく、会社設立後の決算などの会計処理、節税に関する事なども税理士なら継続的に相談することができます。
顧問契約する際は費用が必要になってきますが、会社設立手続きを無料、または安い報酬で引き受けている税理士事務所も多くなっています。
会社を経営していくにあたって、継続的にあらゆる相談をしたいということなら、会社設立、法人成りのタイミングで税理士に依頼するのが良いでしょう。
詳しくは以下の記事でご紹介させて頂いていますので、是非参考にして下さい。